【神戸邂逅】LANDMADE・上野真人さん#2 目の前の消費とその彼方

【神戸邂逅】LANDMADE・上野真人さん#2 目の前の消費とその彼方

連載企画【神戸邂逅】とは

koubekaikou神戸およびその周辺地域にて、大資本が集まる東京とは一線を画すような取り組みを行う人に焦点をあてたインタビュー企画。邂逅とは偶然めぐりあうという意味。思いもよらなかった神戸の魅力に出会えるかも。


インタビュー企画・神戸邂逅の7人目としてご紹介しているのは、地域密着型コーヒーショップや小児がん患者などの支援に取り組む「LANDMADE」の経営者・上野真人さん。前回記事では、嫌いだったコーヒーにのめりこめた理由とその経緯を語ってもらいましたが、本記事では、現在の具体的な活動について話してもらいます。


 

上野真人さん

㈱LANDMADE 代表取締役

スターバックスでのアルバイトや、スペシャルティコーヒー専門の生豆問屋㈱マツモトコーヒーを経て、2016年㈱LANDMADEを創業。「スペシャルティコーヒーを広める」というミッションをもとに、コーヒーという媒体を通じたさまざまな社会貢献活動に取り組む。
日本人ではたった3名しかいないACE(ALLIANCE FOR COFFEE EXCELLENCE)主催の焙煎トレーニング経験者。このトレーニングをもとに作り上げたオリジナルの焙煎メソッドは革新的にコーヒーを美味しくすると評判で、日本各地のカフェや飲食店、焙煎機器メーカー100社以上に焙煎指導を行っている。その他にも、Qグレーダー2012年取得(米国スペシャルティコーヒー協会認定のコーヒー豆鑑定技能者資格)、SCAJ(主催各種競技会)審査員(日本スペシャルティコーヒー協会)。

前回の記事#1 『人生の理不尽さと、コーヒー』はこちらから

自らの身体に流れる父親の血への嫌悪感から、献血へ

―小児がんやチャイルドケモハウスについては、どのようにして知ったのでしょうか。

「僕、16歳の頃からよく献血に行っていたんですよ。自分の身体に流れている暴力的な父の血(詳しくは前回の記事#1)が嫌いすぎて、こんな血で人が助かるなら好きなだけどうぞっていう気持ちで通っていました。その流れで、20歳の時に骨髄バンクに登録をしたんですよ。

ドナー登録をしてからしばらくすると登録したことも忘れていたんですが(笑)、10年後、30歳のときに突然連絡がきて、白血球の型が一致する方がいることが分かったんです。骨髄提供をすることに決めて、手術をここポートアイランドの中央市民病院でしていただきました。そこで、3日間の入院中が暇すぎて色々調べていたら、小児がんのことやチャイルドケモハウスのことを知ったんです。だから今こうして支援させて頂いていることは、すごく偶然なんです(笑)」

―まさに邂逅ですね。いまは具体的にどんな支援活動をしているんでしょうか。

「対象商品の売り上げの一部を継続して寄付しているのと、あとはチャリティーイベントを行っています。今までのイベントで言うと例えば、難病を患う子どもの親御さんの集まりで、スペシャルティコーヒーの飲み比べ会をしました。こういった集まりは、どうしても暗いトーンになりがちなのですが、日常が大変な彼らにコーヒーでホッと一息ついてくれたらなと。そこでは参加費として1500円をいただいて、全額をチャイルドケモハウスに寄付しました。

創業初年のクリスマスに行ったチャリティイベントでは、ポートアイランドの企業にコーヒーを配達し、その売り上げの全額を寄付。3日間で約1,000杯を売り上げた。

また、年末に恒例でチャリティーイベントを開催しています。須磨にあったこども病院が、ポートアイランドに移転してきたこともあり、こども病院の患者や医師・看護師、チャイルドケモハウスの利用者(患者やその家族)や職員を交え、クリスマスイベントも兼ねコーヒーとレモネードを振舞いました。こんなふうに病院間の交流なども今後も増やしていきたいと思いますし、まだまだやれることはたくさんあります」

―そういった支援活動を共に取り組むパートナーさんもいらっしゃるのでしょうか?

「はい。例えば、昨年の年末チャリティーイベントを主催してくださったのが、『Wish Heart』さんという団体です。実際に小児がんで自分の子どもを亡くされた方たちが中心の団体で、1年中様々なイベントに『レモネードスタンド』として出店し、その売り上げで毎年クリスマスに小児がん患者さんとそのご兄弟にクリスマスプレゼントを届ける活動をされています。イベント当日、Wish Heartのみなさんがめちゃくちゃ明るい笑顔で、“メリークリスマス!”って言って事前に応募があったその日初めて会う子どもたちにプレゼントをあげてるんです。でも、その人たちが本当にプレゼントをあげたかったのは、その人自身のお子さんだったはず。ただ、それはもう永遠に叶わない。そういった姿にはやはり感動してしまいました。

百貨店の催事や、イベントでの売り上げを一部寄附していることも。

また、その会では、乳がんで奥さんを亡くされた元読売テレビアナウンサーの清水健さんにチャリティー講演会もしていただきました。清水さんはしきりにこう言っていました。

”なんで自分だけ?って思いません?なんで自分の子どもが(病気に)?僕自身、奥さんががんになりそう思っていました。ただ、同じような経験をされている方々はたくさんいます。そして、そういった人は、同じ状況にある人に必ず手を差し伸べてくれる。だから、一人だけじゃない、支えてくれる人は必ずいるってことだけは絶対に覚えといてください”と」

―清水さんとは、コラボでオリジナルブレンドも出されていましたよね。

「はい、『HERO』というブレンドで、売り上げの一部を一般社団法人清水健基金様へ寄付させていただいております。ぜひたくさんの方に飲んでいただきたいです!」


ギフトボックス(コーヒーバッグ10個入)3.240円
1点につき、500円が清水健基金に寄付され、医療の充実などの活動に充てられる。国内最大級のハンドメイド通販マーケット「minne」で2週連続1位を獲得。

消費は投票?消える消費ではなく、生産的消費へ

―チャイルドケモハウス以外にも様々な方と連携されているのですね。そもそも創業したのは、チャイルドケモハウスへの支援をするためだったのでしょうか?

「チャイルドケモハウスを知ったのは創業前だったかと思いますが、それが起業の直接的な理由だったわけではありません。チャイルドケモハウスや生産農家を支援したい、劣悪な飲食業の労働環境を変えたい、といった思いはありつつも純粋に美味しいスペシャルティコーヒーの店をしたいと思っていました。ただ今振り返ってみれば、チャイルドケモハウスを知ったことで、独立を急いだ感じもします。当時の勤め先の会社に“チャイルドケモハウスを支援したい”と言っても、会社側にとってはなんのこっちゃってなりますよね。かといって、個人の寄付では限界がある。でも、自分がやりたいチャイルド・ケモ・ハウスへの支援とビジネスを一本化できれば、誰に文句を言われることなく継続的な支援ができるはずだと思いました」

チャイルドケモハウスのクラウドファンディング支援プロジェクトも実施。目標額を大幅に越えて達成しました。

―そういった思いでLANDMADEを創業されたわけですが、その名前に込められた意味があれば教えてもらえますか。

「ハンドメイドをモジりました。その“土地(LAND)から生まれるもの”という意味を込めています。地域密着型の心地の良いお店にしたいという思いもありましたが、出店場所をポートアイランドにしたのも近くにチャイルドケモハウスがあるからだし、この場所だからこそ生まれた店だという思いがこもっています。地域や土地に密着することはすごく意識していて、店頭限定で、日常的に買いやすい価格で商品を販売していたり、近くのオフィスにコーヒーを配達したりもしています。『こどもコーヒー』を販売しているのも、小児がんやチャイルドケモハウスのことを地元の子どもたちにも知ってもらいたいという思いがあるからなんです」

―「こどもコーヒー」とはなんでしょうか。

「はい、名前の通り子ども向けのコーヒーで、店頭で100円で販売しています。そして、その100円のうち10円を現金で子どもにキャッシュバックして、レジ横のチャイルドケモハウスの募金箱に、その子自らの手で入れてもらうようにお願いしています」

―子どもたちに自然にチャイルドケモハウスを知ってもらえるよう、行動が設計されているわけですね。

「そもそも子どもがコーヒー屋に入ってくることってないじゃないですか。苦いから普通は飲めない子が多い。それなら、子どもでも飲みやすいコーヒーを作ろうと思って作りました。ただ、子どもたちはチャイルドケモハウスのこととか、難しい話は簡単には聞いてはくれない。だったら、募金という物理的な“行動”を通して、自然に知ってもらおうという考えで10円キャッシュバックを始めたんです。子どもにとっては、“この箱に入れる10円はなんだろう?”ってなりますよね、その時に“君と同じような年齢で小児がんという病気と闘っている子どもを支援する施設が、すぐそこにあるんだよ”って伝えるんです」

終業式には近隣の小学生がお店に集まり「子どもコーヒー」で乾杯したり、時には、子どもたちの夏休みの宿題を上野さんが手伝うこともあるのだとか。”いまの子どもたちは、親か学校の先生ぐらいしか大人と触れ合う機会がない。昔よく見かけた、近所のおじさん的な役割を担うことができれば”とも上野さんは話す。

―まさにこの場所でこそできる取り組みですね。ビジネスであり、教育であり、社会貢献である、という感じがします。

「あわよくば、子どもたちには、自分が払う代金の内訳やその先にいる人々までを想像してもらえたらなとも考えています。100円のうちの10円は闘病する子どもたちを支え、残りの何十円は彼の地のコーヒー農家を救い、残りはお店の人たちの生活を養うことになる、という風に」

―何かを買うということは、その先にいる人々や組織、社会にお金を払うということですよね。理不尽な仕組みが生み出した商品にお金を払うことはそれに加担することになるから、モノを消費することは自分の考えを知らぬ間に表明していることになりそうですね。

KIITO主催の「ちびっこうべ」の一環で、大丸神戸店にて子どもたちと開いたカフェの様子。

「そうですね。LANDMADEのコーヒーを飲むことは、“理不尽な社会や状況に立ち向かうことを応援しています”、というような意思表示にもなると考えています。そしてゆくゆくは、今度は逆にLANDMADEの商品をもって、生産地を巡りたいなと思っています。農家の方々に対し、“あなたたちが作ったコーヒー豆が、子どもたちを含めた多くの人々に愛され、かつ日本の社会問題の解決にもつながっているんですよ”と。そうしたら、きっと生産者も、きっとより良いものを日本の人たちに届けたいと思って頑張ってくれて、消費と生産の良い循環が生まれてくるのかなと思うんです」

LANDMADEのコーヒーバッグは、神戸セレクション2018の食品部門第一位も受賞。瞬く間に人気商品に。

 


取材後記

「環境が人をつくる」というような言葉をよく耳にする。例えば、複雑な家庭環境で育つと、性格的に暗くなったり、人当たりが厳しい人間になりやすかったりする。

そのように環境がその人(の性格など)を決めることを、大げさに「運命」というのであれば、上野さんは運命に逆らえる人だ。

なりたくない人に、気付いたら自分も同じようになってしまっていることはたぶんよくあること。でも上野さんは違う。環境という大きな風にはまかれず、自分で自分の人生を選択的に生きてきた強さがあるのではないか、と数時間のインタビューでしたが、そう感じさせられました。


LANDMADE・上野真人さん 全2回

#1 人生の理不尽さと、コーヒー

#2 目の前の消費とその彼方

仲村 友樹

政治、ビジネス、文学、アート、自然まで色々なことに興味があります。むさぼるように読む本や雑誌からの知識でぼくは成り立っています。ただ、頭でっかちにならないように一応は気をつけているつもりです。

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