【神戸邂逅】LANDMADE・上野真人さん#1 人生の理不尽さと、コーヒー

【神戸邂逅】LANDMADE・上野真人さん#1 人生の理不尽さと、コーヒー

連載企画【神戸邂逅】とは

koubekaikou神戸およびその周辺地域にて、大資本が集まる東京とは一線を画すような取り組みを行う人に焦点をあてたインタビュー企画。邂逅とは偶然めぐりあうという意味。思いもよらなかった神戸の魅力に出会えるかも。


本企画7人目としてご紹介させていただくのは、神戸のポートアイランドで地域密着型コーヒーショップ「LANDMADE」を経営している上野真人さん。それだけにとどまらず小児がん患者の施設「チャイルドケモハウス」支援や生産農家支援、障害者就労支援などにも取り組んでいます。といっても、彼はそれら社会貢献活動を、コーヒーショップ経営の「かたわら」取り組んでいるのではなく、両者をイコール化しているように見えます。つまり、どっちが本業でどっちが副業なのか、といった枠はもはやないということ。本インタビュー第1弾では、上野さんの両者(コーヒー・社会貢献)に対する原動力について迫っていきます。


私たちは、普段飲み物を飲んでいるとき、それを誰がどんな風に作って、どう運ばれてきたのかまでは、いちいち想像しない。消費するまでの流れを意識することは少ない。同じように、消費後の流れも想像しない。自分が払ったお金がどう利用されていくのかには注意を払わない。

そこに、一見すると遠く感じる、スペシャルティコーヒーと社会貢献との関係のヒントが隠されている。

上野真人さん

㈱LANDMADE 代表取締役

スターバックスでのアルバイトや、スペシャルティコーヒー専門の生豆問屋㈱マツモトコーヒーを経て、2016年㈱LANDMADEを創業。「スペシャルティコーヒーを広める」というミッションをもとに、コーヒーという媒体を通じたさまざまな社会貢献活動に取り組む。
日本人ではたった3名しかいないACE(ALLIANCE FOR COFFEE EXCELLENCE)主催の焙煎トレーニング経験者。このトレーニングをもとに作り上げたオリジナルの焙煎メソッドは革新的にコーヒーを美味しくすると評判で、日本各地のカフェや飲食店、焙煎機器メーカー100社以上に焙煎指導を行っている。その他にも、Qグレーダー2012年取得(米国スペシャルティコーヒー協会認定のコーヒー豆鑑定技能者資格)、SCAJ(主催各種競技会)審査員(日本スペシャルティコーヒー協会)。

正社員とバイトを掛け持ち

―そもそも上野さんがコーヒーを魅力に思ったきっかけ、コーヒーとの出会いを教えていただけますでしょうか。

「もともと実家が酒屋だったこともあり、好きだったお酒については、年頃になると教えられるまでもなく知識が増えていきました。ワインとか、カクテルとか、どんどん詳しくなっていったんですけど、同じ大人の飲み物でもコーヒーだけは苦くて飲めなかったんです(笑)。ただ、20代前半の頃なんですけど、当時働いていたレストランではひっきりなしにお客さんがコーヒーを頼んでいて、最初は“なんでこんな苦くて不味いものを皆頼むんだろう?”って思っていました。ただ、あるときふと“逆にこんなにも受け入れられているものを、自分が飲めないのはむしろ自分の勉強不足だろう”って思いなおして、本腰を入れて学んでみたいと思うようになりました」

 


みなとじま駅から徒歩3分にあるLANDMADE。オシャレな店内にはコーヒーの香りが立ち込める

 

―どういう風に勉強されたんですか。

「まずは働いていたレストランの社長にお願いして、早朝だけスターバックスでアルバイトとして働くようになりました」

―その時は正社員だったんですよね。よく兼業を許してもらえましたね(笑)。

「はい、勉強のためということで誠意を買ってもらって、特別に許してもらいました。早朝から数時間だけスタバで働いて、ダッシュで本業のレストランに出勤して、深夜まで働いて、また数時間だけ寝てスタバへ向かうっていう生活を続けていました(笑)」

―嫌いなことを勉強するのは難しいと思うのですが、上野さんはどうして苦手なコーヒーにのめり込むことができたんでしょうか。

「最初は、味ではなく、その背景というか仕組みに惹かれたんです。その仕組みに気付けたのは、スタバで働いていたときでした。ご存知かもしれませんが、スタバって海外の生産者とパートナーシップを結んでいるんです。コーヒー豆の取引価格は、基本的にコーヒー豆相場に準じて決まるんですが、スタバは美味しい豆を作った生産者には+αのプレミアムを支払う、という自社基準で取引をしていました。

これはやっぱり生産者にとってはモチベーションになるし、貧困層が多い彼らにとって、良い豆を作ればその分だけ実入りが増えるからスタバに優先的に納入したくなる。だから、美味しい豆がスタバに自然と集まるということを知りました。搾取されがちな貧困層の生産者を正当に支えられる仕組みが、コーヒー豆取引の背景にあったなんて!と感動しましたね」

ダイレクトトレードが、生活もままならない土地にもたらすもの

―その仕組みというのはよく聞くフェアトレードとは違うのでしょうか。

「フェアトレードは組合単位での仕組みなんです。フェアトレードでものを購入すると、まずは組合へお金がいき、そこから先は組合が割り振りを決定する為、僕らはお金の行く先を指定できません。だから、例えば美味しい豆を作ってくれるAさんというコーヒー生産農家の方を支えたいと思っても、ピンポイントでAさんを救うことはできない。対して、僕がさっき説明した仕組みは、ダイレクトトレードといって、生産農家との直接取引なのでAさんならAさんの農家を直接的に支援できるんです。

そのダイレクトトレードの走りが、スターバックスだったんですよ。自分の買ったコーヒーが途上国のだれかを支えているんだ!と自覚したうえで、スタバを利用してる人は少ないだろうけど、逆に言えばそうやって、何気なく飲まれているコーヒーにそんな価値が含まれてるということに感銘を受けましたね。実際、その後にコーヒー業界に転職して、そういった直接取引をするわずか数年の中で、電気も水道も通っていなかった生産農家の町に、ライフラインが整備され小学校も建ったというのを目の当たりにしてさらに驚きました」

 

―なるほど。味ではなく、生産者、販売者、消費者みんなが幸せになる仕組みに惹かれたということですね。スペシャルティコーヒーとの出会いもこの頃なのでしょうか?

「そうですね。コーヒーの魅力に気付いたきっかけは、味よりも仕組みが最初でしたが、他にもいろいろと学んでいくうちに知ったのがスペシャルティコーヒーです。これは、スペシャルティコーヒー協会によって明確に定義づけられています。それは“消費者の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること”

いろんなメーカーやお店が“うちのコーヒーは、スペシャルティコーヒーです”と謳ってますが、つまるところ、そう呼ばれるための必要条件は“美味しい”ということだけなんです。ある意味では曖昧に感じるかもしれませんが、逆に言うとそのためには栽培から収穫、生産処理、輸送、焙煎、ドリップまで、徹底した品質管理が重要で、消費者の口の中に運ばれるまでのすべての工程にひとつでも不備があってはいけないという厳しいものなんです」

どんな人でも失敗のしようがないコーヒーバッグ

―消費者の味覚による部分が大きいんですね。定性的なものではなく、数値化された定義があるのかと思っていました。

「味覚審査で80点以上というルールはありますし、結果的にですが全コーヒー豆の上位5%にあたる、という表現もあります。この味覚審査をするのは、国際的なQグレーダーという資格を持った専門家で、実は僕も持っています。

この審査は、ただ単に点数をつけるだけでなく、味をみてそれを生産者にフィードバックすることも仕事です。例えば、飲んでみて雑味が混じっていたとすれば、豆の形状を観察しながら、その雑味がどの工程で発生してしまったのかを突き止め、生産者にアドバイスをすることができるというような力が必要です」

―生産から消費までの工程でひとつでも不備があったら、例えスペシャルな豆を使用していても、スペシャルティコーヒーとは言えなくなってしまうというのはなんとも厳しいですね。

「はい、だから、LANDMADEでは、コーヒーバッグという商品も作っています。

ご購入はコチラから

その名の通りティーバッグのように、コーヒーバッグをお湯に浸して飲みます。一般的にはハンドドリップで飲む人が多いと思うんですけど、これって、素人がやると出がらしに(味・香りが薄く)なりやすいんです。だから、せっかく生産から焙煎・挽きまでは良くても、最後、一般の消費者の方が自宅でドリップする段階でせっかくの素材が台無しになってしまうこともありえるんです。

じゃあそもそも失敗しようがない、絶対美味しく飲めてしまう商品を開発しようと思い、コーヒーバッグを作ったんです。スペシャルティコーヒーは、本来、お湯をかけるだけでも美味しい。さらに、これなら味をみながら、バッグを再度浸し直すなどして濃くできるし、浸しすぎたなって思ったらお湯を注いだらいい。素材が良いので複数回浸しても、雑味がでません。そうやって、自分好みに調節できるという意味でも、失敗がないんです」

―改めて、コーヒー嫌いだった上野さんがそこまで道を極めることができるってすごいですね。

「もともと僕は凝り性なんです。昔、格闘ゲームで『ストリートファイターⅢ』というのがあったんですけど、19歳と20歳のときに、2年連続で日本一になったことがあります(笑)。本当に朝から晩までやってましたね。大会前なんかは、東京にウィークリーマンションを借りて、ゲーム仲間の紹介で集まった全国でもトップレベルの強者たちと、朝・昼・晩に一人ずつ対戦していくというかんじで超ストイックにゲームに取り組んでいました。そして、東京遠征の滞在費用なんかは中高時代の友人にカンパしてもらっていました(笑)」

―色々と驚きを隠せないです(笑)。

「ゲーム業界で少し有名人になりまして、それがきっかけでカプコンの人に働かないかと誘われて、ゲームのバグチェックの仕事をしていた時期もありました(笑)。今思うと、格闘ゲームで強くなるためのトライアンドエラーの繰り返しというプロセスが、いまのコーヒーを焙煎する仕事にも生かされている気がします(笑)。コーヒーの焙煎は化学反応なので、原理を正しく理解して、細かな修正を加えていく工程が大事、という点ではゲームと同じかもしれません」

父親の理不尽さに対する、自らの無力感

―その年齢の時に、経済的にバックアップしてくれる友人がいたというのも驚きです。

「実は、今の株式会社LANDMADEも、その時の中高時代の友人やマツモトコーヒーで働いていた時の取引先の方々から出資を受けて創業したんです。いまはその人たちに少しでもいいから早く配当金を出して恩返しをしたい、という気持ちで頑張っています。当時、中高一貫の私立校に通っていたんですが、関西でも有数の進学校だったその環境で大学に進学しなかった僕は、いわゆるドロップアウト組のひとりだったんですよ。

高校1年生のときに父が借金を残して蒸発してしまって、大学に進学するお金もないという状況でした。その高校では異例だったんですが、生活していくためにアルバイトをする許可を学校からもらったりもしていました。そんな自分を見守っていてくれた仲の良い友人たちは“いつか自分で商売始めるなら出資するで”と以前からずっと言ってくれていました」

―そんなご友人がいるのも凄いですが、なかなか波乱万丈な人生ですね。

「父はもともと酒屋を経営していたんですけど、大の酒好きで、かつ酒癖も悪くて、母と喧嘩になったら暴力をふるったりもしていました。兄は仲裁に入っても火に油を注ぐだけだと大人しくしていたんですけど、僕はどうしても我慢できず、止めに入っては何もできずただ泣いている日々を過ごしていました」

―今の明るく朗らかな印象の上野さんからは、そんな少年期を過ごしていたとは想像できませんね。

「当たり前ですけど、大人と子どもでは体格が違うから150%の力を振り絞っても父には勝てないんですよ。中学生くらいの頃、刃物で父を刺そうとしたこともありました。その時は母が、“あんな人のために、あんたの大事な人生を棒に振ることのほうがもったいない”と言って全力で止めてくれたので踏みとどまれました」

―そういう壮絶な経験をしたことが、今の上野さんにもつながっている部分はあるのでしょうか。

「そうですね。言われてみればですが、当時の理不尽な状況や、なにもできなかった自分の無力感に対する反発なのか、今は、同じように理不尽な境遇に置かれている人に何かをしてあげたいと強く思うようになりました。経済的に搾取されていたコーヒー生産農家の方々に、ダイレクトトレードできちんとしたフィーを払いたいと思うのも、当時の影響があると思います」

上野さんがダイレクトトレードで取引をするコ―ヒ―農家、エレアナさん

 

―小児がん患者の子どもたちや、その家族に優しい施設チャイルドケモハウスへの支援も行っていますよね。

「はい、それも根本は同じです。小児がんって先天性のものではなく、突如として発病するものなんです。親の遺伝でも、生活習慣で気を付けられることでもなんでもない。そうすると“よりによってなんで自分が?”、“なんで自分の子どもが?”って本人やそのご家族は思いますよね。そんな、ある日突きつけられる圧倒的理不尽さみたいなものに対し、僕自身も少しでも何かできることがあればって自然にそう思うんです。だから、僕がやっていることは慈善事業や社会貢献活動であるという感覚はないです。ただ、理不尽な状況に置かれた人たちのことを知ってしまって、そんな人たちをほっておけないないだけなんです」

レジの横にはチャイルド・ケモ・ハウスへの寄附を募る募金箱が。

 


見て見ぬふりができずさまざまな支援活動を行う上野さんは、きっと他者への想像力が人一倍強い。もしかしたら途上国の劣悪な環境で働くコーヒー生産者の家庭に、自分も生まれてきたのかもしれない。私たちは、親を選べなければ、生まれる場所も選べない。この身体だって自分で選んで生まれてきたわけではない。

だから、自分もがん患者になり得たかもしれない。その気持ちがあるから、「自分さえよければそれでいい」とはならず、これほどまでに他者のために動けるのではないかと、勝手に思いました。次回は、チャイルドケモハウスなどの支援の具体についてお聞きしていきます。

次回#2は、7月27日(金)公開予定

仲村 友樹

政治、ビジネス、文学、アート、自然まで色々なことに興味があります。むさぼるように読む本や雑誌からの知識でぼくは成り立っています。ただ、頭でっかちにならないように一応は気をつけているつもりです。

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