【神戸邂逅】TEAM クラプトン・山口晶さん#1 DIYの壁はDITで越えられる
連載企画【神戸邂逅】とは
神戸およびその周辺地域にて、大資本が集まる東京とは一線を画すような取り組みを行う人に焦点をあてたインタビュー企画。邂逅とは偶然めぐりあうという意味。思いもよらなかった神戸の魅力に出会えるかも。
本企画6人目としてご紹介させていただくのは、内装業を主として営むTEAM クラプトンの山口晶さん。大企業への就職や終身雇用など、ある種の正解的な生き方が崩れ去った今、ミレニアム世代の彼らはなにを思いなにを大事にして生きているのでしょうか。
約30年前、「ほしいものが、ほしいわ。(西武百貨店)」という糸井重里のキャッチコピーが話題になった。ときはバブル真っ只中。必要なものは既に揃っているものの、それでもなお、なにかを買うお金が有り余っていた時代といえるかもしれない。
さて、現在はどうだろう?上記のキャッチコピーが誕生したころに生まれてきた人々は、今「さとり世代」と呼ばれる。このワードには、物欲や出世欲などがないとして、若干の揶揄が含まれているが、本当のところは、欲がなくなった訳ではなく、欲求の方向が変わっただけなんじゃないか。
では、それは今どこに向いているのか。このインタビューにそこはかとなくヒントが隠されているので、是非全3回の最後まで読んでもらいたい。
山口晶
軒を連ねるようになった王子公園高架下にベースを構えている。
ものづくり+作り方からつくる
―TEAM クラプトンを作った経緯について教えていただけますか。
「大学卒業後、明石の設計事務所で働いていたんですけど、週末が暇だったんです。あと、設計士ってデスクワークがすごく多いんですよ。現場に行っても、大工さんがいるから、指示をすることしかできず、もどかしさを感じていました。自分の手でものに触れない。だけど、図面は自分でも作れるぐらいに考えて細かく書き込んでいたから、待て待て、これ自分で作れるやん!ってなって(笑)。それから週末に友達を集めて一緒に小屋とかを作りだしたのが始まりです」
―事業としてスタートさせたというよりも、趣味的に始めたということですね。お施主さんがついた最初の仕事はどんなものでしたか。
「あるときトアウエストに雑居ビルを一棟所有しているポールっていう人に出会ったんです。彼は英会話教室をやっているんですけど、話を聞いているとポールは、”将来自分のビルでシェアハウスを始めたい、でも時間がなくてやれていない”という状況らしく。だから、その時に“是非そのシェアハウスをぼくたちに作らせてくれませんか”ってお願いをしたんです。“作業費はいりません、材料費とご飯代だけ用意してもらえますか”という条件で。当時は、平日は設計事務所で働いていたので、週末だけぼくらが施工をして、簡単なところを平日にお施主さんにやってもらうようにしました。“工程は長いスパンになるけど、費用は安く抑えられるし、密なコミュニケーションができるから、必ず理想のものを作れる”って伝えると、ポールはその提案にのってくれて、それがTEAM クラプトン(当時は元町クラプトン)の初めての仕事でした」
これがそのシェアハウス。施工中から、施主や施工参加者らとビルの屋上でバーベキューを楽しんでいたという。仕事の依頼主と受け手という(上下関係を含んだ)二元的な関係性が、ひとつに溶け合い、良い意味でフラットな関係となる
―”お施主さん参加型のものづくり”というわけですね。
「予算が少なくても、建築は可能なんです。工務店に頼んだりすると、当たり前だけどすべてやってくれるから高くついてしまう。そうじゃなくて、お施主さんでできる部分だけは、彼ら自身に引き受けてもらえればいいんじゃないですかっていうのがぼくらの考えです。ただ、お施主さん一人の力でできることは、やっぱり限られている。だから、ぼくらはその人たちに“友達を呼んでください。やり方は教えますから”って言うんです。この考えは単にコストを抑えられるだけでなく、みんなで何かをつくることはとても楽しいことだから」
―TEAM クラプトンは“みんなでつくろう”をコンセプトに掲げていますが、これを思いついたきっかけを教えてください。
「いま振り返れば、studio-Lという会社でインターンをしていたときの穂積製材所プロジェクトの影響が大きかったです。そのプロジェクトでは、関西圏の建築系の大学生を週末に集めて木工体験ができる“場所づくり”をしていたんです。近くに温泉はあるし、ご飯を食べることもできるけど、宿泊できる所がなかったから、その場所づくりに僕も関わりました。その作業はもちろん楽しかったんですけど、夜中まで意味分からん議論をみんなでしてるんですよ(笑)。“いまの社会はどうなってんだ”とか。めっちゃ熱いやつらが集まってたんです。お金のない学生が、毎週末2000円以上の交通費と長い時間をかけてそこに集まって夜な夜な熱く語っているような環境が2,3カ月続きました。いま振り返れば、これが“みんなでつくろう”の原点的体験だったなと」
DIYからDITへ
―studio-Lといえば、コミュニティデザインで有名な山崎亮さんの会社ですね。
studio-Lとは
日本におけるコミュニティデザインの第一人者・山崎亮氏が率いる会社。デザイン=物理的なものをつくるというイメージがまだ強かった時代に、コミュニティなどのソフト(かたちのないもの)のデザインに取り組んだ先駆的存在。
「はい、あそこのインターンめっちゃ面白かったですよ。能がないやつは食うべからず的な厳しい会社ではあったんですが、山崎さんはまじで最高でした。めちゃくちゃ魅力的な話し方をするし、読んでる本の量も半端なくて知識量がすごいし、発想力もすごい」
TEAM クラプトンの初期メンバーの3人。studio-Lがきっかけで出会ったそう
―元々コミュニティデザインに興味があって、studio-Lでインターンを始めたのでしょうか。
「当時はちょうど東日本大震災があった頃で、ボランティアに行こうと色々リサーチしていたんです。すると、大学時代に興味のあったAFH(Architecture For Humanity)というアメリカのNPOが復興支援のために来日すると聞いたんです。さらに調べていくと、その窓口をstudio-Lが担当するというので、そこで初めてstudio-Lを知りアポイントをとりました。当時はコミュニティデザインという言葉も知らなかったので、あそこでインターンを始めたのは偶然のなりゆきでした。ただ、ぼくはあの会社から確実に影響を受けているし、コミュニティデザインというかソーシャルデザインのようなものはいまも意識しています。デザインは単に形あるものだけを作るのではなく、なにかを作ることによって、社会を巻き込むというようなもの、それをクラプトンとして、いまやっているつもりではあるんですけど。従来の“やってみなよ”というDIY(Do It Yourself)ではなくて、DIT(Do It Together)、”みんなでつくろう”の楽しさを見つけていきたいなって思っています」
”みんなでつくろう”はコミュニティを生むだけでなく、施主にとっても思わぬ副産物を生み出します。次回はそんな”みんなでつくろう”の具体像について伺っていきます。
次回#2は、1月12日(金)公開予定