【神戸邂逅】神戸タータン発起人・石田原弘さん#2 服が男をつくる

【神戸邂逅】神戸タータン発起人・石田原弘さん#2 服が男をつくる

連載企画【神戸邂逅】とはkoubekaikou

神戸およびその周辺地域にて、大資本が集まる東京とは一線を画すような取り組みを行う人に焦点をあてたインタビュー企画。邂逅とは偶然めぐりあうという意味。思いもよらなかった神戸の魅力に出会えるかも。


石田原さんは”いまのファッションは、自分らしさ(個性)重視に偏りすぎてはいないか”と話します。では、おしゃれをするにおいて、それ以外に必要なことは何があるのでしょうか。


%e7%9f%b3%e7%94%b0%e5%8e%9f%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3

石田原弘氏

神戸タータン協議会 会長
石田洋服店 店主
神戸ブランメル倶楽部 運営委員

『神戸タータン』の生みの親。
両祖父がテーラー、父は服地の輸入卸業という
生粋の服飾一家に生まれた宿命か、自身もテーラーを営む。

前回の記事『#1 神戸の新たな共通言語』はこちら

粋な大人たちが集う、神戸ブランメル倶楽部

―続いて、ファッションの話に移っていきたいと思います。神戸のまちを歩く人々のファッションについて、何か感じることはありますか。

「例えば東京のファッションは、ひとつのブランドで上から下までそろえるようなスタイルが多いように感じる一方、神戸の人たちはジャケットはこのブランド、パンツはこのブランドと自分でセレクトしてうまくコーディネートして着ているように感じますね」

―ひとつのブランドで全身をまとうのは、おそらく失敗が少ない。一方、世界観の異なるブランドをひとつひとつ組み合わせながらも、全身でまとまりのあるスタイルを作るのは難しいですよね。

「はい、だから神戸の人たちは、ファッションの感度が高い人が多いと思います」

―ところで石田原さんは、神戸ブランメル倶楽部(※)の運営委員でもありますよね。ブランメル倶楽部には、どんな人が集まるのでしょうか。

※(以下引用)趣旨
『日本近代洋服発祥の地』である神戸は今も、紳士服から靴まで、紳士の装いが揃う街です。異国情緒漂う街並みに、洒脱な雰囲気にあふれた店の数々。神戸には、大人の遊び場あるいは社交場としての要素が数多くあります。それらを今一度つないで、紳士たちが装い、行き交い、楽しむことができる、そんな国内でも稀有な場をつくりたい。そして、そこから日本の紳士の装いをもっと盛り上げたい。そんな想いから生まれたのが、神戸ブランメル倶楽部です。

_dsc8525ブランメル倶楽部主催の交流会。クラシックな装いに身を包んだ大人たちが一堂に会す

2012-11-11-tweed-walk-%e3%83%bb%e3%83%bbride-kobe-2012%e7%b9%9d%e8%bc%94%ef%bd%99%e7%b9%9d%ef%bd%a9%e7%b9%9d%ef%bd%b3%e7%b9%9d%e3%83%bb%ef%bd%99%e7%b9%a7%ef%bd%a3%e7%b9%9d%ef%bd%b3%e7%b9%a7%ef%bd%afTweed Walk & Rideなるイベントも開催。ジャケットを着て運動するのかといぶかる方もいるかもしれないが、ツイードジャケットは元々英国紳士が狩猟や乗馬などの場面で着用したスポーツ着である

「地域的には、市外の方々が多いです。また業界でいえば、もちろん服飾業界の人もいますが、それ以外の業界に勤める人の方が多いですね。たぶん、服飾業界ではない業界に身を置く人でおしゃれに興味ある人って、やっぱりその環境では浮いてしまうんです。ファッションの話が出来る人が身近にいなくて、それが出来る人を求めてブランメル倶楽部に来はる方はやっぱりいますね」

―ブランメル倶楽部では、みなさんどんな話をされるんですか。

「普通ですよ(笑)。ただ、やっぱりみんな服の話はしますし、特に手入れの話とかはよくしますね。例えば、靴の手入れとかでしょうか。靴を見れば、人がわかるって言いますよね。必ずしも高い靴を履く必要はないですが、その靴の手入れ具合でその人の生き様みたいなものが良くも悪くも現れてしまうと思うんです。そういう話はみんな好きですね」

―服の話というと、いま流行っているブランドとかについてですか。

「それはないですね。本当に服に興味がある人は、どちらかというと流行の最先端を先行くよりも、過去のファッションを掘り出すことに関心がある人が多い気がします」

―ブランメル倶楽部の紋章(下写真)を拝見したのですが、そこには”Vestis Virum Reddit”というラテン語が刻まれていますね。 英訳すると”Clothes make the man”となるみたいですが、この言葉の真意を教えて頂けますか。

brummell_final-%e3%82%b3%e3%83%94%e3%83%bc

「これはマーク・トウェイン(『トム・ソーヤーの冒険』の原作者として有名)の言葉です。おそらくどんな人でも、スーツを着るとシャキッとした気分にさせられますよね。正装であるスーツを着る以上、下手な真似はできないというか、節度ある振る舞いをしなくてはいけない、と自分を律する力があります。文字通り、服が男(女)らしさを作るというところですね。

また、昔一緒に仕事をしていたイメージコンサルタントが言っていたんですが、人の印象って6秒で決まるそうなんです。そして、人は体の96%を服で覆っているという事実があります。基本的に顔と手しか素肌が見えない。もちろん表情も印象を左右する大事な要素ではありますが、やはり服装で人格を判断されても全くおかしくないんです。だから、その意味でも服装がその人を作る(決める)と言っても過言ではないかと思います。

ただ、一方でここで付け加えていけないこととしては、いくら良い服を着ていても、内面が伴わなければ意味がないとは思っています。内面とは教養の部分です。例えば、話の仕方、立ち振る舞いなどでしょうか。ここが、6秒以降の勝負の部分ですよね」

それはおしゃれな着崩しか、それとも単なる服装の乱れか

―服に対する価値観というのは、世代ごとにギャップなどはあるんでしょうか。

「そうですね、われわれの世代は、大人がしている服装に対し、理想やリスペクトがありました。場所や時間、シチュエーションによって、どんな服装が正しいスタイルなのかを、ファッション雑誌や洋服店の店主さんから学んできました。ただ、いまの若い人たちは、そういう機会が少なくなってきているのではないでしょうか。現在のファッションのトレンドは、“自分らしさ”が重要視されていますよね。自分のパーソナリティに合った服装をしたり、ファッションで自己表現をするという考えです」

―わたしもよく男女関係なくファッション誌を読みますが、それは本当に思います。“小柄で丸顔の方は〇〇が似合います”というように、読者個々人に最適化されたような誌面が最近は多い気がします。

img_0130

「はい、だから“服が男(女)を作る”という考えは、いまの若い人たちにはなかなか理解されないかもしれません。おっしゃるように最近は、他者や社会よりも、自分らしさに偏重したファッションが主流になっています。ただ、本来服というのは50%は自分のため、もう50%は他人のために着るものだと思っているんです。極端な例でいえば、真夏の暑い日だからといって、お葬式に半袖半パンで行く人はいないですよね。亡くなった人や親族に対し弔意を表すために、それなりの服装で臨むのが当然です。だから、ファッションは自己表現って言っても、せいぜい50%に過ぎないんです。後の半分は、対面する相手に対して、何らかの気持ちを表するためにあるんです。」

―池波正太郎や伊丹十三などのように、大人の作法的にあれこれと“べき論”を用いてファッションを教えてくれるものが、本や雑誌にしろ現在は少なくなってきている気がしますね。

「そうですね、“こういうときはこんな服装をするべきだ”のように正しい服について語る雑誌が昔は多かったし、親もそれを教えてくれた。一方で、いまの人は、そういった基礎的なことについて知らない、つまり戻るところを知らない根無し草のようになっていると思うんです。例えば、正しいスタイルを知っているうえで、ドレスダウン、着崩すというのは良いかと思います。ただ、戻る場所、つまり基礎的な正しい服装を知らずに着崩してしまっている人は、帰る場所がないんですよね。だから、そういう人はおしゃれに着崩しているというよりも、単なる服装の乱れになってしまう気がします」

自分の個性ではなく、お客さまの個性を引き出す

―昨今クールビズやオフィスカジュアル化が進んでいますが、トラッド(伝統的なスーツスタイル)を重んじるテーラーの立場から見て、率直にどう思われますか。

「彼らはおしゃれのハードルを自分で高めているのではないかと思います。スーツにしろ、ネクタイにしろ何百年と培ってきたスタイルを自ら放棄してしまっている。例えば、ネクタイってすごい便利なアイテムなんですよ。一着しかスーツを持っていなくても、おしゃれなネクタイを何本か持っているだけで印象ががらっと変わるんです。それを活用しないのは何だかもったいないなと感じてしまいます」

―パリコレクションのファッションデザイナーも、石田原さんのようなテーラーも、服を作るという意味では共通していると思います。ただ、ファッションデザイナーはほとんど際限なく自己表現ができます。一方で、テーラーはあくまでスーツが基本になるため、ファッションデザイナーほどには、“その人らしさ”が出にくいのではないでしょうか。とすると、テーラーの個性というのはどこに現れるのでしょうか。

img_0134

「われわれおあつらえを行うテーラーは、ビスポークとも呼ばれるんです。これ、もとはbe spokenと綴っていたんです。speakの過去分詞形ですよね。つまりお客さまとしっかりと対話をしながら、スーツをあつらえるという意味なんです。だから、基本的にわれわれテーラーの個性を表現するよりも、お客さまの個性を引き出す方が大切なんです」

―最後になりますが、真におしゃれな人たちに共通点があるとすれば、何があると思いますか。

「先ほど手入れの話をしましたが、やはりものに対し愛情を注げることではないでしょうか。意外とお金持ちの人って、ものを大切にするんです。逆にお金のない人の方が、ものを粗雑に扱ったりする。ものに愛情を注げられる人は、きっと人や仕事に対しても愛情を注げられる人だと思っています」

取材後記

パリにはエッフェル塔という絶対的なシンボルが存在している。しかし、建設当初は一部の市民から冷ややかな視線を浴びていたという(パリの景観を壊すと思われていたため)。エッフェル塔でさえこうなのだから、まちの、市民のシンボルとして定着するのは大変な苦労がかかり、それは『神戸タータン』も例外ではない。

ただ、石田洋服店にてこのインタビューをしていると、わたしはある光景を目にし、その心配はほとんど払拭された。

”神戸タータンのネクタイ置いてないやろうかー”

入店直後の第一声で、そう尋ねたお客さんがいた。少し息切れ気味だったので、よっぽど楽しみにしていたのか、あるいはいくつかお店を探し歩いてきたのかもしれない。

わずか1時間ほどのインタビューの間にも、こういった状況を目の当たりにしたわたしは、きっと彼ら根強いファンが中心となって『神戸タータン』は広まっていくんだろうと身に染みて感じた。


神戸タータン発起人・石田原弘さん 全2回

#1 神戸の新たな共通言語へ

#2 服が男をつくる

本企画企画第4弾は7月公開予定


仲村 友樹

政治、ビジネス、文学、アート、自然まで色々なことに興味があります。むさぼるように読む本や雑誌からの知識でぼくは成り立っています。ただ、頭でっかちにならないように一応は気をつけているつもりです。
Company name社名
株式会社イディー(英文表記:IDEE INC.)
Tel / Fax電話番号
TEL:078-331-5255 FAX:078-331-7800
CEO代表取締役
Company Profile会社概要
詳しくはこちら
Address所在地
〒650-0024
兵庫県神戸市中央区海岸通8番神港ビルヂング5F