【神戸邂逅】神戸タータン発起人・石田原弘さん#1 神戸の新たな共通言語

【神戸邂逅】神戸タータン発起人・石田原弘さん#1 神戸の新たな共通言語

連載企画【神戸邂逅】とは
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神戸およびその周辺地域にて、大資本が集まる東京とは一線を画すような取り組みを行う人に焦点をあてたインタビュー企画。邂逅とは偶然めぐりあうという意味。思いもよらなかった神戸の魅力に出会えるかも。


本企画第3弾としてご紹介させていただくのは、神戸市内でテーラーを営む石田原弘さん。おしゃれなまちとして認知される神戸ですが、それに慢心し何も行動を起こさないでいると、神戸のブランド力も失墜しかねない。そう思った石田原さんは、市や企業と協力し大きな一歩を踏み出しました。


まちを織りなす色々

神戸は色とりどりだ。深みある青色をした穏やかな海、まちを背後から見守る緑豊かな六甲山、ロマンティックな夜景におしゃれな差し色を加えてくれる真っ赤なポートタワー。これらの色々をひとつの“柄”として織り込んでいくとすれば、どんなものになるだろう。

%e7%84%a1%e9%a1%8c『神戸タータン』公式ホームページから

それを体現したものが、昨年生まれた『神戸タータン』だ。神戸の新たなシンボルを目指し、石田洋服店店主の石田原弘氏が主導しこれを制作した。市内の数十を超える企業と協力し、このタータンをあしらった商品の開発を行っており、既に一部で品切れ商品が発生するなど大きな人気を博している。

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三宮の神戸ロフトにて開催の神戸タータンフェア(5月21日まで)。文房具などの小物から、老舗高級帽子ブランド『マキシン』のハットまで幅広い商品ラインナップ

ただ、現時点で神戸のシンボルとなり得ているかは、始動して間もないということもあり、まだ道半ばと言える。市民から広く長く愛される(シンボルとなる)ためには、何が必要なのだろうか。

そこで、神戸邂逅第3弾となる今回は、『神戸タータン』の考案者であり神戸タータン協議会会長を務める石田原弘氏へインタビューを行った。

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石田原弘氏

神戸タータン協議会 会長
石田洋服店 店主
神戸ブランメル倶楽部 運営委員

神戸タータンの生みの親。
両祖父がテーラー、父は服地の輸入卸業という
生粋の服飾一家に生まれた宿命か、自身もテーラーを営む。

時代の先端を行くのでなく、時代を遡る

―まず、大学卒業後から神戸タータンへの取り組みまでの経緯について教えていただけますか。

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「大学卒業後、三年ほどヨーロッパへ留学していました。フランスで一年半、イギリスに一年、イタリアに半年ほどです。もともと父親が服地の輸入卸会社を経営していまして、それと同じ仕事をしたいと思ったんです。語学学校に通いながら、父親の会社と取引のあった『SCABAL』というウールマーチャント(商社)で働いていました。ただ就労ビザはとれないんで、ほぼただ働きでしたね。

帰国後は、伊藤忠商事(五大商社の一角をなし、繊維が主力)で服地の輸出を4年ほどしたのち、父親の会社で本格的に仕事をするようになりました。そこで10年ほど働いたところで、阪神淡路大震災が起こりました。それがきっかけで神戸での仕事がぴたりとなくなってしまって、翌々年には任意整理に至りました」

―整理後、どのようにしてこの石田洋服店を開業したのでしょうか。

「清算した会社の子会社に、質の高い縫製工場があったんです。それを何とか生かしていこうと、2000年にこの石田洋服店をスタートさせました。祖父がもともとテーラーだったので、それを再興した感じになります」

―三代続けて、洋服に関係する仕事をされていたんですね。その歴史を物語るエピソードのひとつになるかと思うのですが、明治天皇が着用されたフロックコートを石田原さんが現在お持ちになっているとか。

「店の奥のどこかにありますよ(笑)。拝領に至った記述なんかを見ても、明治天皇が着用されたもので間違いないんですが、明治天皇は写真嫌いだったそうで、実際に着用している写真はないんですが」

2017-05-05_15-17-05_433明治天皇が着用されたフロックコートの実物。100年以上の時を経てもなお廃れないデザインをしている

―過去の留学経験を振り返ってみて、フランス、イギリス、イタリアのなかで一番影響を受けたのはどの国でしたか。

「イギリスですかね。現代のメンズファッションの礎を築いたのは、やはりイギリスだと思うんです。例えばフランスのルイ何世みたいな、貴族風の服装をしている人っていまはいないですよね。もちろん、フランスやイタリアでもテーラーはありますが、それもイギリスのテーラリングを自分たちなりに再解釈・再構築したものになるんです」

―テーラーが集まるストリートとして世界的に有名な『サヴィルロウ』もイギリスですね。

「はい、われわれ紳士服を作る人間は、新しいものを作るというよりも、古いものを掘り起こしていく作業が大切です。だから、われわれはスーツの歴史を遡っていく必要があり、その歴史が始まったのがイギリスなので、当然影響を受けました。一般的なデザイナーは、ゼロから全く新しいクリエーションをすることもあるかと思いますが、紳士服の世界ではそれは難しいし、そもそもやらないんです」

タータンが企業と企業を結び付ける

―『神戸タータン』はどのように始動したのでしょうか。

「まず現在のように神戸市との連携が始まる前に、当店のハウスタータンとして2014年に神戸をイメージしたタータンを個人的に制作していたんです。そして、スコットランドタータン登記所で公式なタータンとして認可してもらう際に(ここで登録されたものでないとタータンを名乗ることはできないと言われてる)、『KOBE』という名前で登録しようとしました。すると、先方から“神戸という地名を使用しているが、ちゃんと神戸市長に許可は得ているのか”と言われまして(笑)。もちろん許可は得ていませんから、当時はしょうがなく『Tailor Ishida,Kobe』という名前で登録しました」

img_0121登録証明書を持つ石田原氏。現在は、『Kobe Fashion Organization』(神戸ファッション協会)の名義へと変更している

―国の厳重な管理のもと、タータンは存在しているんですね。

「そしてその翌年の暮れに“開港150周年に何かイベントを行いませんか”と神戸市から相談を頂いたんです。ただ、イベント1回だけで終わらせてしまうのは寂しいと思い提案したのが神戸のシンボルを作ることでした。そこで当店のタータンをベースに改良を加えたものを『神戸タータン』としました。運用としては、神戸市内の企業などとコラボし、『神戸タータン』を使用した商品やラッピングなどを開発しています」

―開港150周年以降も残るものとして『神戸タータン』を選ばれたわけですが、一時的なキャンペーンやブームで終わらせないために、考えていることはありますか。

「会員(神戸タータンの使用権限を持つ企業)との結びつきを強めていくことが必要になると思います。企業や商店街の方、『神戸タータン』の素材を作ってくださっているメーカーの方々、入会希望の方々などが一堂に会する大交流会を67日に開催する予定です。そうやって、マッチングの機会を提供することで、『神戸タータン』を媒介に企業の様々なコラボレーションを創出していきたいと思っています。例えば、わたしも『神戸タータン』を使用した布団カバーを布団メーカーさんと共同で作ることになったんですが、それもタータンがつなぎ合わせてくれた出会いだったと感じています。そのメーカーさんと話をしていくうちに、うちで作る紳士シャツと布団カバーに使用する生地が一緒であることを、わたし自身初めて知ったんです。このようにビジネスの種が生まれるチャンスとして機能していければ、『神戸タータン』は持続していくと考えています」

―そもそもの話になりますが、どうして神戸をイメージしたタータンを作りたいと思ったのでしょうか。

「神戸に住んでる人ってみなさん神戸が好きですよね。ただ、一方で誇りを失いかけているのではないかとも思うんです。みんな“神戸が好き”“神戸が一番”と言ってるけど、具体的に神戸のどこが好きなのかは答えられない人も結構いると思うんです。だから、それをもう一度再発見したい、神戸の人々の寄りどころとなるもの、アイデンティティを作りたいという思いがあったんです。

img_0124石田原氏は、神戸市からの委託で神戸港の紋章(上写真)も制作した。左のフラッグには、『神戸タータン』が配置されている

また、神戸にはたくさんの魅力がありますが、住んでる人からすれば意外と普通のまちなんです。まちを歩いていても、全国チェーンの店が軒を連ね、神戸らしさや独自性っていうのが昔に比べると落ちています。ただ、県外の人たちは口をそろえて”神戸はおしゃれなまちなんですよね”と言ってくれる。東京や大阪にはないものが神戸にあると思って来てくれる。つまり、全国的にも『神戸』というブランドはまだ健在している。だから、そのブランド力があるうちに何かしないといけない。神戸の人々が神戸を自慢できる武器を作りたいと思って、神戸タータンを作ったんです」

神戸の人が知らない、神戸のお土産にはなってはいけない

―まちの印象をタータンで表現するっていうアイデアも面白いですね。

「神戸だからこそできたとぼくは思っています。神戸はコンパクトなまちです。六甲山があって、港町や居留地が広がっている。イメージを凝縮しやすいちょうどよいバランスだと思うんです。例えば、東京とかどうでしょう。魅力がたくさんある大都会ですが、逆にメガシティかつ混沌としすぎて、統一したイメージを作りにくいと思うんです」

―市外や県外の人々へ、神戸タータンを認知してもらうために考えていることはありますか。

「そうですね、ぼくはわざわざ神戸市外の人々に『神戸タータン』を発信する必要はないと考えているんです。神戸の人がもっとタータンを好きになって、彼らが発信していってくれたらと思っています。だから、まずは神戸タータンが、市民の心の寄りどころとなれるような存在になっていかなければいけません。マスメディアを使って全国の人々へタータンを伝えるよりも、神戸に住む人々が自ら県外の友人や親戚などに“神戸には、こんなんあるねん。いいでしょ”って思わず自慢したくなるような形で広がっていってくれればよいなと思います」

―まずは神戸に住む人々から、ということですね。

「はい、だから基本的には神戸タータンの商品は神戸以外では買えません。よく“名物にうまいものなし”って言うじゃないですか。お土産って美味しくないものが結構ありますよね。それはやっぱりお土産のために作られたお土産だからなんです。“どこそこへ観光しに行ってきました”という証以外にはそんなに値打ちがない。『神戸タータン』はそうなったらあかんと思ってます。お土産にされることはうれしいことですが、ちゃんと中身が伴っていなくてはいけません。神戸の人々に愛されて初めて“神戸のお土産”になり得るんです」

―県外の友人が神戸まで遊びにきたりすると、お土産を買って帰ってくれますが、神戸で暮らす自分がその神戸土産を知らないっていうことが確かにあります。

「“神戸名物〇〇”とかって大々的に書いておいて、神戸におる自分は1回もそれを食べたことがないってことがよくありますよね」

―『神戸タータン』を、形式的に設定された神戸のシンボルではなく、市民から納得・共感され誇りに思ってもらうために、考えていることはありますか。

「地道なことになりますが、やはり商品として価値の高いものを開発していくことです。でなければ、さっきのお土産になってしまう。だから、われわれもお互い切磋琢磨していかなくてはなりません。だから、タータングッズは一業種一種とかっていう縛りは設けず、自由な競争環境を用意しているつもりです。そうやって淘汰されていくことで、自然といいものだけが残っていくと思います」

―グッズ販売以外での運用はあるのでしょうか。

「総合的なプロモーションへの活用も考えています。神戸は、ファッションやスイーツなど有名なものがいくつもありますが、それらが別々で存在しています。しかし、そこに神戸タータンという共通のデザインを用いることで、統一されたブランディングが可能になると思うんです。また、神戸にはハーバーランド、居留地、北野など色々なスポットがありますが、それらの地域と地域の溝を埋めるものとしてもタータンが役に立つのではないかと考えています。それまで、別々のプロモーションをしていた地域で、『神戸タータン』が使用されることで神戸というまち全体に統一感が生まれます」

2017-02-28_13-13-59_788ハーバーランドや元町商店街の街頭に掲げられた『神戸タータン』のバナー

かつてない取り組みは、前例から学べない難しさがある

―石田原さんは神戸タータン協議会の会長を務められていますが、その協議会での話し合いの際に、一番時間がかかったり意見が別れた議題は何でしたか。

「まずは色ですね。それぞれ持ってる感性は違いますから。視認性や印刷したときにどうなるかという視点から、シンプルで使いやすい色にしたかったんです。

また、根本的な話になりますが、タータンでまちおこしをしている地域は、どこにもないので、前例から学ぶっていうのができないんです。だから、会員企業さまへの対応などを含め、どのように協議会を運営していくかは本当に難しいところです」

―例えばどんなところに難しさを感じますか。

「タータンを単なるひとつのデザインとして安易な商品作りをされることでしょうか。タータングッズを生産してくださるのはもちろんうれしいことではありますが、それが行き過ぎると他社が参入できなくなります。先ほども言ったように、われわれは切磋琢磨して神戸タータンの価値をさらに高めていかなくてはならないので、健全な競争環境を維持することが必要になります。他にも、過度に安価な商品を作りすぎたら、神戸タータンのイメージが損なわれる危険性もあるのでそこも注意を払わなくてはなりません」

―そこらへんは本当に難しいところですね。

「はい、ただ心掛けているのは、安いものもあれば高いものもある。例えば、300円のボールペンもあれば、うちみたいに10万円するジャケットもあります。高級品だけだったら神戸の人々に広くあまねく手に取ってもらうことはできません。ただ、逆に安いものだけだったら神戸タータンを所有することへの誇りなどが失われてしまう。だから、高級品によってブランドイメージを保持しながら、手軽な商品も投入することで、幅広い人々へタータングッズを使用してもらえるよう配慮しています」

dsc_1536『神戸タータン』のジャケット。正統派のテーラードデザインだが、改まりすぎず、こなれた大人の余裕を演出してくれる


『神戸タータン』が人と人とを結び合わせる共通言語となることで、神戸というまちに統一感を生む。それが理想のシナリオであり、現在進行形でその動きは着実に広まっています。次回は、テーラーである石田原さんが考える、おしゃれの哲学について聞いていきます。

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次回は5月26日(金)公開予定・全2回

仲村 友樹

政治、ビジネス、文学、アート、自然まで色々なことに興味があります。むさぼるように読む本や雑誌からの知識でぼくは成り立っています。ただ、頭でっかちにならないように一応は気をつけているつもりです。
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