【神戸邂逅】元町映画館支配人・林未来さん#3 自分を生きなくてもいい時間

【神戸邂逅】元町映画館支配人・林未来さん#3 自分の人生からはしごを下せる時間

連載企画【神戸邂逅】とは

koubekaikou

神戸およびその周辺地域にて、大資本が集まる東京とは一線を画すような取り組みを行う人に焦点をあてたインタビュー企画。邂逅とは偶然めぐりあうという意味。思いもよらなかった神戸の魅力に出会えるかも。


他者の目を気にしすぎていると、自分にとって大事なことが見えなくなってくるかもしれません。そもそも、自分って何なのでしょうか。その問いに対しても、映画は大きな役割を果たします。


%e6%9e%97%e3%83%97%e3%83%ad%e3%83%95-01

林未来氏
『元町映画館』支配人

偶然目にした新聞記事がきっかけで、元町映画館立ち上げに参画。
 “映画は世界に開かれた窓”という自身の言葉が示すように、
映画を起点に様々な分野に関心が拡がるような
イベントをペース良く開催している。

前回の記事『映画は入り口#2 制作者と会える映画館』はこちら

口コミにいちいち左右されるのは、自分の価値観がないから?

―興行的に思ったような数字が出なかったりすると、その責任の矛先がすぐに監督などの制作者へ向いてしまうような気がします。例えば、観客が、自分の頭で作品をうまく咀嚼できないと、すぐに“面白くなかった”とか“駄作だ”と制作サイドの責任にしてしまう。しかし、作品が面白くないと感じる理由は、必ずしも制作サイドの力量不足とは限らず、作品を面白がれない受け手の姿勢にも問題があるのではないでしょうか。そこで、私たち観客がより映画を楽しむためには何が必要であると思いますか。

「まずは、自分自身のことを知ることから始めてみるのがいいんじゃないでしょうか。映画とか小説とかって、ある意味自分を映し出す鏡だと思っているんです。たくさん映画や小説を観たり読んだりして、価値観を育てる。そうしていくと、自分はどんなことにぐっときて、どんなときに泣けるのか、自分の好みが分かってくる。

映画や小説という物語の世界に触れる、そのときに感じた印象がきっと自分でありその人の価値観なんだと思うんです。だから、映画に良し悪しはたぶんなくて、自分の価値観に合うか合わないか、つまり好きか嫌いかになってくると思います。あとは、トークショーの話のときにも言ったけど、作品に関係するものやバックグラウンドについての知識があれば、より豊かな映画体験になるんじゃないでしょうか」

img_9761

―価値観というのは、いまの時代的にも大事なキーワードになりそうですね。情報があちこちに散乱していたり、情報の真偽も確かではありませんから。

「最近の若い人たちは、自分自身を知らない人が多いのかもしれません。確かに、インターネットが普及し莫大な情報量が交錯していて、いまは自分を知ることが難しい時代であるからしょうがない部分もあるとは思っているんですけど」

―“自分を知らない”というのは、具体的にどこからそれを感じたんでしょうか。

「価値観を外に投げ出してしまっているように見えてしまうことがあって。ネットの口コミに流されやすい人が多かったり。SNSの普及によって、社会からの視線が厳しくなっていたり、それを過剰に感じてしまう若い人が多くなっているように思えます。だから、自分の本音を表明することを控えているのではないかと。そして、それを控えっぱなしにしておくと、ついには自分の意思さえ自分で分からなくなるみたいな」

―それはすごく悲しいことですね。ただ、現状として、何か少しでも世間とはズレたことを言うと、すぐつつかれたり、挙句の果てには炎上という形でつるし上げられることも事実としてあります。

「最近若い女の子と話す機会があって、その子が“素直に本音を話せるのは親ぐらい”って言っていたんです。私は若者は親に反抗するものだとつい思い込んでいたから少し衝撃で。最近は親と仲がいい子増えているのかもしれません。それって、つまり友達には本音でしゃべれないってことですよね。もうそこまできたら、“友達って一体何なの!?”って感じになっちゃう(笑)最近の人たちは意見が相手と異なることに慣れていないのかもしれません」

自分の人生からはしごを下せる

―最後にひとつだけ、もう一度林さん自身のことについてお尋ねします。
さきほど“まずは自分を知ることから始めたらいい”という言葉がありましたが、林さん自身も、映画や小説から自分自身を知っていかれたんでしょうか。

「そうですね。ずっと昔の話ですけど、“自分って何だ”と自ら問う時期があって。自分と真正面で向き合う時期というか。それは思春期の頃だったんですけど。自分はどうしてこんな風な人として生まれてきたのか。自分はやっぱりだめな人間なんだと思ってしまうことがあって。そういう経験ってみなさんありませんでしたか(笑)そういうときに映画や小説が必要なんです。“なんで自分はこうなんだ”って突き詰めて考えていくと、絶望の淵に立つわけですよ。そういった自己否定に歯止めをかけてくれたのが、映画や小説だったのかもしれません」r0021143林さんの愛読書。吉田篤弘氏は、執筆活動の傍ら『クラフトエヴィング商會』という名義で装幀デザインも手掛ける

―それが、林さんが物語によって救われた経験だったんですね。

「映画や小説にはだれかの人生が描かれていて、それに浸っている時間は自分とは別の人生に触れられる。自分の人生から一瞬はしごを下せるんです。…あ、ちょっと待ってください、いま少し近づいたかもしれない。なぜ物語を求めるのかっていうさっきの問題に(笑)だって、自分の人生からはしごを下せるのって、死ぬときくらいですよ!」

―映画を見ている間は、自分の人生を生きなくてもいい、ということでしょうか。

「うん、すごく頭を使った気がしたけど、何か核心に近づいた気がします(笑)」

 img_9758

取材後記

話を伺っていると、林さんはどちらかというと、大の映画好きというよりは、映画をもとに何かを企画することが好きなのではないかと感じた。もっと言えば、映画はあくまできっかけに過ぎず、映画によって新しい人や世界に出会うことの方が大切であると考えているのかもしれない。

“映画は世界に開けた窓”という林さんの言葉にあるように、映画はいちばん世界に近い場所であり、その窓を開ける恰好の場所がきっと元町映画館なんだろう


映画は入り口 全3回

#1 人生の舵取りは自らの手で

#2 制作者と会える映画館

#3 自分の人生からはしごを下せる時間

本企画企画第3弾は5月公開予定


仲村 友樹

政治、ビジネス、文学、アート、自然まで色々なことに興味があります。むさぼるように読む本や雑誌からの知識でぼくは成り立っています。ただ、頭でっかちにならないように一応は気をつけているつもりです。
Company name社名
株式会社イディー(英文表記:IDEE INC.)
Tel / Fax電話番号
TEL:078-331-5255 FAX:078-331-7800
CEO代表取締役
Company Profile会社概要
詳しくはこちら
Address所在地
〒650-0024
兵庫県神戸市中央区海岸通8番神港ビルヂング5F