【神戸邂逅】元町映画館支配人・林未来さん#2 制作者と会える映画館

【神戸邂逅】元町映画館支配人・林未来さん#2 制作者と会える映画館

連載企画【神戸邂逅】とは

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神戸およびその周辺地域にて、大資本が集まる東京とは一線を画すような取り組みを行う人に焦点をあてたインタビュー企画。邂逅とは偶然めぐりあうという意味。思いもよらなかった神戸の魅力に出会えるかも。


「作品の意味やメッセージが理解できるかできないかで、観客の作品への満足度は変わってくる」と話す元町映画館支配人の林未来さん。元町映画館では、理解が難しかった点について、監督や俳優などの制作者本人に直接質問ができるチャンスがあります。


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林未来氏
『元町映画館』支配人

偶然目にした新聞記事がきっかけで、元町映画館立ち上げに参画。
 “映画は世界に開かれた窓”という自身の言葉が示すように、
映画を起点に様々な分野に関心が拡がるような
イベントをペース良く開催している。

前回の記事『映画は入り口#1 人生の舵取りは自らの手で』はこちら

神戸で見られないジャンルを作りたくない

―続いて元町映画館の特徴についてお聞きしていきたいと思います。シネコン(複数のスクリーンを所有する大型映画館)の増加などによって、公開作品の数自体は増加していると聞きます。そのような映画作品の供給過多時代に、元町映画館ではどういった視点で公開作品を選定しているのでしょうか。

「映画は娯楽であると同時に、文化でもあると思っているんです。実は、元町映画館がオープンしてから3年くらいで、34つの映画館が閉館してしまって。それは、神戸で上映される作品の幅というかバリエーションが狭くなることを意味するんです。例えばですけど、今後元町映画館で上映していく作品ジャンルについて立ち上げメンバーと話していた時、“ホラー系はうちで上映する必要はないんじゃないか”という意見が出たんです。ただ、ホラー系などのB級作品を上映する映画館も閉館してしまって。それって、つまり神戸からホラー映画というジャンルがなくなるってこと。それは問題だなって思って。神戸では見られない映画ジャンルを作りたくなかったんです。うちは一つしかスクリーンがないから、神戸で観られるジャンルを増やすことは物理的に難しい部分があるけど、せめて減らさないという意識は持っています。だから、うちでも結局ホラーは上映しました。そうやっていくうちに、いつの間にかノンジャンルになっていましたね(笑)」

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―特定の映画ジャンルに絞るのではなく、むしろノンジャンルであることが元町映画館の特色になっているんでしょうか。

「そうですね。私の考えですけど、ひとつの映画ジャンルに絞った映画館として打ち出していくというのは、その地域で多様性に富んだ映画環境があって初めてできることだと思っているんです。神戸は映画館が少ないから、ジャンルの面で尖った個性を発揮することより、まずは神戸における映画の多様性を保つことを優先しています」

さっきまでスクリーンのなかにいた人が目の前に…

―個性と言えば、舞台挨拶やトークショーなどのイベントの多さは、元町映画館が他と比べても群を抜いていると思います。

1日に3回イベントする日もあります(笑)平均しても週1回くらいはあるのかな」

元町映画館のイベントリポートを見ていると、映画館へ足を運んできた『観客』・監督や俳優などの『制作者』・イベントを企画運営する『劇場』、これら三者の空間的、精神的な距離の近さを感じました。これは、観客の映画体験にどのような影響を与えていると思われますか。

dscn8447各国際映画祭で数々の賞を受賞した『ハッピーアワー』制作陣による舞台挨拶。壇上と客席の距離が近いため、会場に一体感が生まれやすい

dscn8687ドキュメンタリー作家池谷薫氏によるトークイベント。監督の思考回路やクリエイティビティの発露を辿ることができる

「人間ってやっぱり会うと、その人のことを好きになっちゃうってことがあると思うんです。たまたま、映画を観に来た方が、上映終了直後に、さっきまでスクリーンのなかに映っていた俳優や、その作品を作った監督を実際に目の前にする。そして、作品に対する彼らの思いを聞き、イベント終了後はサイン会やお客さんの送り出しで実際に言葉を交わす。すると、彼ら監督や俳優に対しお客さんは何かしら親密さを感じてしまうと思うんです。それは、同時に作品の印象までもが強くなるはずで。

あと、もうひとつは、制作者である監督や俳優の生の言葉を聞くことで、作品への理解が深まるってこともあると思うんです。映画ですから、なかには解釈が難しい作品もあります。作品のメッセージが、分かるか分からないかでやっぱりお客さんの満足度は変わってくるんです。意味が分からない作品は“面白くない”って、どうしても結論付けされやすくなる。そうなってほしくないから、お客さんが監督や俳優に直接分からなかったことを質問できるQ&Aの時間を作るようにしています」

―お客さんに作品の解釈を丸投げしない、単に見せっぱなしにはしない。元町映画館はお客さんに対しアフターケアが手厚い印象を受けます。

「まあ私たちも、トークショーがない場合は、見せっぱなしになっちゃいますけどね(笑)ただ、そこって少し難しい部分ではあるんです。どこまでお客さんに作品の解釈を伝えてよいものなのか。監督や俳優の方たちは、自らそれについて線引きができる。例えば、ここからはお客さん自身で解釈してほしいと思う部分については、あえてしゃべらないっていう判断ができる。でも、私たち映画館側は制作者ではないので、解釈を押し付けることはできないし、してはいけないとも思うので」

―たしかに、そこらへんの線引きは難しそうですね。

「はい。理想はやっぱりお客さん自身で、自分なりに理解することだと思います。最近は、簡単に理解ができないと、自分の心のなかで掘り下げようとすることを辞めてしまう人が多い気がします。分からないと、すぐにシャッターを閉めてしまう。だから、うちのトークショーが、お客さん自らが自分なりに考えるきっかけとなればいいなと思っています」

―元町映画館は、映画鑑賞とトークショー両者をひとつのパッケージとして提供している印象を受けます。その意図について教えていただけますか。

「うちでは、作品自体を制作者本人に語っていただく舞台挨拶だけでなく、作品の主題や周辺情報、時代背景について、大学教授などの識者に語っていただく形式のトークショーも行ったりします。それは作品で登場するテーマについて、知識があった方が楽しめるはずだと思うからなんです」

―作品のバックグラウンドについて、ある程度の知識があった方が楽しめるというのは確かにそうですね。

「あと、トークショーをきっかけにお客さんの興味が拡がっていけばいいなと思っています。映画は世界に開かれた窓であるとも思っていて。ファッションや食、エコ、社会問題などさまざまな分野につながっているのが映画です。その窓を大いに開いてくれる役目を、トークショーが担えればいいなと思うんです」

r0020638マリメッコの創業者を描いた映画『ファブリックの女王』の公開に合わせて開催された北欧マルシェ。このようにイベントといっても、トークショーだけにとどまらない

現実を直視しなくてもいい時間

―ここからは映画自体の魅力についてお聞きしたいと思います。別のインタビューで林さんは、“映画は違う世界の扉を開けるのではなく、現実の扉を閉める装置”であるとおっしゃっていました。

「受け売りなんですけどね(笑)吉田篤弘という小説家が私は好きで、その人の言葉なんです。この言葉を初めて目にしたとき、自分の映画に対する気持ちを言い当ててくれた、言語化してくれた!と思ったんです。実は、私現実にあまり興味が持てなくて(笑)物語の世界が好きなんです」

―新聞やテレビを見ていると、過重労働やワーキングプア、人間関係の問題によるストレスなど、気が重くなるようなニュースを目にする機会が多い気がします。つまり、現実生活に疲弊してしまっている人が最近多いのではないかと。その現実を束の間でも閉め出してくれる映画は、彼らに何を提供してくれるのでしょうか。

「私自身、現実は生き辛い場所だとずっと思っていたんです。学校とかも嫌いだったし。だからこそ、私には物語が必要だったんです。特に思春期のころは、私も現実に疲弊した人たちのひとりでした。そのときに、物語に救われた経験があって」

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―物語が現実生活で抱える問題解決への糸口になったんでしょうか。

「そこは何というか…映画を観たからといって、現実生活の悩みが解決に向かうとは限らないかもしれません。もちろん、自分が現在置かれている状況と似通った映画を観て、パワーをもらえるとかはあるかと思います。ただ、映画というものは、ビジネス書みたいに何かの役に立つツールではなくて。だから、映画は、現実に生き疲れている人に、具体的に何か解決策を与えてくれるわけではないかもしれないけど、映画に触れている時間だけは現実を直視しなくていい」

―たしかに、物語では自分が見たい世界を見られる、というのはあると思います。

「一方で映画や小説にまったく触れない人もいるじゃないですか。私からしたら“みんな、物語がなくて、よく現実を生きていけるな”って思ってしまうんです(笑)

ただ、なぜそんなにも物語が必要なのかと改めて聞かれれば、明確にきちんとした言葉で説明することが正直まだ出来ていないんです。頭のなかでイメージとしては描けてはいるんですけど、ピタッと当てはめられる言葉をまだ探している途中なんです」

―言葉というものは本当に難しいですよね。

「この問いは、本当に、10年くらいずっと考えてきたことで、すごい本質的なことだと思うんです。この問いの答えをうまく言語化できたなら、映画や小説に触れる習慣がない人にも響くんじゃないかって思っていて。だから、それを私はずっと考えてきたんですけど、難しい(笑)」


確かに、私たちはなぜ物語を求めるのでしょうか。物語を紡ぐことを生業にする人でも、答えを詰まらせてしまう問いかもしれません。しかし、このまま質問を重ねていくと、その答えに一歩近づく言葉が林さんの口から、自身でも思わぬかたちでこぼれでます。

Next→『映画は入り口#3 自分の人生からはしごを下せる時間』
次回は4月28日(金)公開予定・全3回

 

仲村 友樹

政治、ビジネス、文学、アート、自然まで色々なことに興味があります。むさぼるように読む本や雑誌からの知識でぼくは成り立っています。ただ、頭でっかちにならないように一応は気をつけているつもりです。
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